ニューヨーク市のマンハッタン島南部(ダウンタウン)にソーホー(SoHo)と呼ばれる地域があることはよく知られています。今ソーホーと言えば、Small Office/Home Office(スモールオフィス・ホームオフィス)の略語「SOHO」の方を想起する人が多いかもしれませんが、「パソコンなどの情報通信機器を利用して、小さなオフィスや自宅などでビジネスを行っている事業者」といった意味で使われることでいけば、このニューヨークの地域に語源が辿れますね。
このソーホーは、芸術家やデザイナーが多く住む芸術家の町として1960年代から1970年代に掛けて知られるようになりました。この町についてウィキペディアでは次のように解説しています。
「ソーホーには廃業した繊維・衣服工場や倉庫など、19世紀末に建てられたキャストアイアン建築(cast-iron、鋳鉄建築)が多く空いており、あまりにも賃料が安く、さらに天井も高くて窓が大きく明るい中で作品制作ができるため、第二次世界大戦後からお金のない芸術家やデザイナーたちのロフトやアトリエに転換されていった」。
「さらに彼らの集うレストランやギャラリー、ライブハウスができ、多くの歴史に残る個展や朗読会などが開かれていた。1980年代以降、高感度な地区としてヤッピーたちや観光客が集まるようになり、のどかな雰囲気は急速に失われていく。ギャラリー街は主にチェルシー地区へ、芸術家やデザイナーらはその他ロウワー・イースト・サイド地区・トライベッカ地区・ノーホー地区・ノリータ地区・ハーレム地区へ移り、さらにそれらの地区も高級化してしまい現在はマンハッタンも出てブルックリンにまで移りつつある。近年は高感度な高級ブティック・レストラン街となっている」。
「ソーホーの語源は、ハウストン通り(Houston Street:ヒューストンとは発音しない)の南側に位置する地区(South of Houston Street)、という意味である。(より早くから繁華街として有名だったロンドンのソーホーを意識してもいる)。
前置きが長くなりましたが、このソーホーを熊本の地に築きたいという女性が、四人目の今日のゲスト・黒田恵子さんです。古い繊維問屋街が残る河原町では、空き店舗を若者たちに安く貸し出し、画家やアクセサリー作家、デザイナー、レトロな着物の愛好家などで運営するショップやアトリエとして再活用するプロジェクトが始動しています。
「昔ながらの問屋さんたちとコミュニケーションを深めながら少しずつみんなの足並みをそろえて、もっともっと活気あるエリアにしていけたら」と語るのが「河原町文化開発研究所」副代表でのある黒田恵子さんです。私が今関わっている「まち育て塾」で、この河原町の活動を知り、今日突然お邪魔してお話をうかがいました。
黒田さんは、高校卒業後、モデルとして東京へ。その後テレビでタレント活動をされるなどして12年後に熊本に戻って、4年前にこのプロジェクトに出会い、この土地で「GALLERY ADO(ギャラリー・アドゥ)」を開業されました。屋号の由来をお尋ねしたところ、黒田さんがお好きなミュージシャンのシャーデーのヴォーカルの名前「アドュ」から取ったということでした。
後で「アドゥ」は、正しくは「Adu」だったことに気づかれますが、「ado」にも「から騒ぎ、騒動」の意味があることを発見され、この町に人を集め、騒がしい町にしたいという黒田さんの願いも表していることからそのままこの屋号に決めたということでした。
なぜギャラリーだったのか?うかがうと、もともと絵画鑑賞がお好きで、あるとき長野に旅行された際に立ち寄った画廊で、横浜の画廊主と知り合いになり、その画廊で働く事になったことで、熊本に帰ったらギャラリーをやろうと思われたそうです。ちなみに、その画廊主の奥様がフラワーコーディネーターだったことから、黒田さんもその道の修行も積まれています。
「GALLERY ADOギャラリー・アドゥ」は、一階がカフェで、二階がギャラリーになっています。この建物がまさに本家ソーホー顔負けのレトロ感覚溢れる空間です。聞けば、昭和33年頃に建てられたものとか。なんと私の生まれた年です。映画、「ALWAYS」の世界です。ギャラリーには熊本で画業に励む若者たちの作品が早く陽の当たるのを待つかのように展示してありました。
熊本の若い表現者に協力したいという黒田さんの店には、私がインタビューをしている間にもいろいろな若き表現者たちが入れ替わり立ち代り現れていました。自主映画をプロデュースする林さん、この町で同じくショップも経営する画家の渡辺さん、天草にある「海のピラミッド」の再生活動に燃える田中さんと村上さんと、あっという間に「一見」の客である私もお知り合いにさせてもらいました。
黒田さんの表現者たちへの思いは、彼らの横のつながりばかりではく、縦のつながりの必要性へとつながり、なんと日本を代表するアーティスト・日比野克彦さんに伝わります。それは、「河原町文化開発研究所」が月一回発行するミニコミ誌で、日比野さんへの単独インタビューに結実しています。「思考は現実化する」の好例ですね。
開業から4年たった黒田さんの現状の思いは、KAB熊本朝日放送が運営するウェブTV「まち×ひと」(
http://www.machihito.tv/)の映像で知ることができます。そして、彼女の描く夢の先には、自分の手で表現者たちをプロデュースする舞台が待っています。「そのためにもまずここを成功させたい」と熱く語った黒田さんからオーラのようなパワーを感じました。
「GALLERY ADO」;熊本市河原町2
TEL;096-352-1930(OPEN;11:00~20:00)
http://www.just.st/303750